知財戦略とは、
経営戦略・事業戦略の実現を知的 財産の側面からサポートする戦略、 あるいは、特許等の知的財産権法を利用して、競合他社に対する競争優位性を確保するための仕組み作りといえるでしょう。
企業の知財戦略としては、まず、 自社が展開している技術分野と、これから新たに参入しようとする技術分野等を確認することが必要でしょう。
業界や特許の種類によっては、この特許は3億円の価値がある、という場合があります。 それは特許がそのまま市場を独占できる場合です。 典型的な例は医薬品です。あるいは、青色発光ダイオードのようにいままでになかった技術です。
それに対し、1つの製品に数百・数千もの特許が含まれている場合には特許1件の価値を計るのは極めて困難です。
自社が優位な技術、他社が優位な技術、あるいは拮抗している技術等を認識しながら、 自社技術力などとのマッチングを確認し、特許出願と開発を進めていくことが知財戦略の柱と言えます。
知的財産戦略によって企業は成長することができますが、 一方、知的財産権侵害によって高額な損害額の支払いによって経営危機に陥いる企業もあります。
特許出願の流れ
この特許出願の流れの中で、注目されるのが「拒絶理由通知」が来るという点です。
この拒絶理由通知とは出願した内容の一部に不十分な部分がある場合や、審査官が登録の確証を得るために出願人の意見を聞くための通知です。
そして出願人は、出願内容の不十分な部分や、審査官が心配している部分を補ったり補強したりすることで拒絶理由を解消して登録に導くことができます。
「拒絶理由通知」は意匠出願や商標出願でも来るのですが、 特許の場合は一定の限度はあるものの意匠や商標に比較すると広く認められるという違いがあります。
出願人は「拒絶理由通知が来たから、もうおしまい」と思いがちです。
しかし、この拒絶理由通知というのは審査官の中間判断であり、「補正をすれば特許にするよ!」という趣旨が隠れている場合も多いのです。
そして、特許は拒絶理由通知を経過して登録されるのが一般的なのです。
特許出願人は広く権利を取りたいと考える一方、広く権利を取ろうとすれば、公知技術等と同一という拒絶理由通知が来るのです。
その拒絶理由通知に対しては、特許請求の範囲を狭く限定しなければ権利化できません。
出願の時点でどこまでの範囲で特許になるのかは誰にも分かりません。
そこで、特許をぎりぎりのラインまで広く取りたいと思う場合には、少し広めに特許請求の範囲を記載し、 拒絶理由通知を見てから範囲を限縮するという作業は必要となるのです。
不正競争防止法と商標法
ブランドを主に保護するのは商標法ですが、不正競争防止法でもブランドは保護されます。
不正競争防止法は、「人の業務に係る氏名、商号、商標、表彰、商品の容器若しくは包装その他の商品 又は営業を表示するもの」を商品等表示と呼び、周知な商品等表示や著名な商品等表示を保護しています。
具体的には、不正競争防止法第2条第1項第1号では、周知な商品等表示について、周知な商品等表示と似ている商品等表示を使用して、他人の商品などと混同を生じる行為を、不正競争として禁止しています。
つまり、①周知性、②類似性、③混同性を満たす行為が不正競争です。
また、不正競争防止法第2条第1項第2号では、著名な商品等表示について、 著名な商品等表示と似ている商品等表示を使用する行為を不正競争として禁止しています。
つまり、①著名性、②類似性を満たす行為が不正競争です。
ブランドは不正競争防止法で保護されるのに、どうして商標法でも保護されるのでしょう?
それは、不正競争防止法による保護を受けるためには、商標が有名であることを証明しなければならないからです。
この有名であることを証明することはなかなか難しく、裁判の長期化や裁判コスト増大の原因となります。
商標法では、予め商標権を取得しておけば、それが有名であることを証明しなくても、不正競争防止法よりも容易に保護を受けることができます。
このように、訴訟費用と保護の確実性を考えると、商標を登録しておいた方が、全体としての保護コストは小さくて済みます。
ブランド戦略には不正競争防止法に加えて商標法の保護は必要不可欠と言えます。
知的財産権の種類
発明と呼ばれるものですが、自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの、と定義されています。 「物」「方法」「物の生産方法」の3つのタイプがあります。
発明ほど高度なものではなく、物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案を保護します。
特許権と異なり「方法」は保護されません。特許権の権利期間は原則20年であるのに対し、 実用新案権の権利期間は10年です。
美感を起こさせる外観を有する物品の形状・模様・色彩のデザインの創作についての権利です。
権利期間は登録設定から20年です。
いわゆるブランドと呼ばれるもので、自分が取り扱う商品やサービスと、 他人が取り扱う商品やサービスとを区別するためのマークを保護する権利です。
文学、学術、美術、音楽の範囲に属するものを保護する権利です。コンピュータプログラムも含みます。
公正な競争秩序を確立するために、著しく類似する名称やデザイン、技術上の秘密などの使用を差し止めることができます。
半導体の集積回路配置を保護する法律、植物の新品種を保護する法律、 営業上の法人格を表示するために用いる商号を保護する法律等があります。
特許法の目的とは?
特許権は、他人を排して権利者のみが独占的に発明を実施できる権利です。
他人が特許発明を実施すると権利侵害になります。
特許権が侵害された場合は、発明の実施をやめるように請求できたり、不当な利得の返還を請求できたり、 損害の賠償を請求できたり、場合によっては侵害罪として刑事上の責任を追及できます。
強い権利を与える代わりに、その発明の内容を公開しなさいというのが特許制度の考えです。
意外かも知れませんが、特許法の目的は「発明をした人が儲けられるようにするため」ではなく、 新規な技術を公開したその代償として独占的利益を与えようとするものです。
発明の内容が公開されて、文献的に利用されたり試験や研究などに利用されれば、社会全体の技術の発展、向上につながります。
そのような産業の発達に寄与するというのが特許法の目的です。
先行技術調査の必要性
特許出願をしても自分が考えた発明と同じ内容で既に誰かに出願されて公開されてしまっていたら、 特許権を得ることはできませんし、費用も無駄になってしまいます。
また同じ発明の内容で他者が特許権を得ていた場合には、その特許権を侵害してしまう可能性さえあります。
これらを避けるためには、他者によりすでに特許出願されて公開されてしまった発明などについて調べる先行技術調査を行っておく必要があります。
自分が考えた発明品はどこの店を探しても売ってないから特許を取れるだろうと思っていても、先行技術調査をすると同じようなものが見つかったりします。
先行技術調査は、具体的には自分の発明と近い内容が記載された公報(出願内容が特許庁により公表されたもの)などを探す作業になります。すぐに特許申請をする予定がない場合であっても、先行技術調査を行って研究している技術周辺の発明を調べておくと、 研究に役立ち、特許権を取得できる範囲を広げることができ、無駄な研究や、特許権侵害を避けることができます。
外国出願について
よくある質問として、日本で取得した特許権は外国でも有効でしょうか?というものがあります。
残念ながら、日本で特許出願したものや日本で取得した特許権は、日本国内でしか効力がありません。
このため、外国において、第三者の侵害行為を防止したり独占的に実施を確保したい、ということであれば、当該国に特許出願して、特許権を取得する必要があります。
外国へ特許出願する場合、例外もありますが、㆒般的に日本へ特許出願した日から1年以内にする必要があります。
外国出願をするにあたっては、日本国の代理人費用に加え、各国毎の代理人費用及び特許庁費用が発生し、1つの案件でも出願国が増えれば、それに伴って費用も増加して行きます。また、出願後の拒絶理由に対する応答処理も出願国毎に発生することから、それぞれ、日本国の代理人費用、及び各国毎の代理人費用が発生します。
実際に外国へ特許出願をすると、予想以上に費用がかかってしまい、途中で断念してしまうケースも見受けられますので、 外国出願するに際しては、例えば、実際に特許出願に係る製品を当該国で実施(製造、販売等)するか否か等、その国で権利化することが必要であるかどうかについて、予め十分に検討した上で行うことをお勧めします。